ささき動物病院

電話番号
〒259-0123 神奈川県中郡二宮町二宮1269-10

コラム

ホーム > コラム

カテゴリ一覧
カテゴリ一覧

イヌの消化器系の病気について (下部消化器10)消化器系

下部消化器である大腸についてお話します。

大腸は、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、直腸、肛門から構成されています。上行結腸と横行結腸で水分と電解質を吸収し、下行結腸と直腸で糞塊を貯蔵します。結腸は分節収縮と蠕動収縮によって食物は5時間以内に結腸に達して、結腸内の通過時間は、1日から3日ほどです。人と違って、この蠕動運動が逆方向に起こることがあり、食物が直腸まで急速に進まないように制御しています。また、結腸の特徴として、腸管内の内圧上昇と、拡張によって、結腸の分節、蠕動収縮を刺激されます。
よって、繊維質などを多く供給することは、下痢や便秘の治療に有効です。 下痢の場合、繊維は、分節収縮(内容物を混和)を促し、水分、電解質を吸収します。 便秘の場合、繊維は、蠕動(内容物の移動)を促して規則的に糞塊が排出されるようにな ります。

大腸は食物内の大部分の水分吸収を請け負います。小腸の吸収機能が低下したときは、 代償して水分吸収する予備能力があります。
結腸の粘膜は円柱状で密であり、塩類や水分が漏れ出るのを防ぐ構造です。栄養素の消化吸収は起こらず、細菌発酵によって揮発性脂肪酸が産生され塩類と同時に吸収されます。この過程が阻害されると、下痢が起こります。また、腸内細菌の産生する酸化脂肪酸が過剰になると、分泌性下痢を誘引します。また腸内細菌はアンモニアを常に産生します。肝臓で尿素に変換された後、腎臓で排泄されますが、肝臓、腎臓障害によって高アンモニア血症となり神経中枢の障害(肝性脳症)が起こります。

次回は大腸疾患についてお話していきます。

イヌの消化器系の病気について (下部消化器9)消化器系

下部消化器の各炎症性腸炎ついて述べていきます。

1.リンパ球性形質細胞性腸炎
好発犬種としてジャーマンシェパード。小腸における慢性炎症腸炎であり、腸粘膜の固有粘膜層に、形質細胞、リンパ球の浸潤がみられます。
症状は、慢性嘔吐、慢性下痢、慢性嘔吐と下痢です。炎症性腸炎でありながら嘔吐のみであり下痢がまったく認められない症状もあります。この性質が特異で重要な点です。
生化学検査では、低アルブミン血症、高ガンマグロブリン血症がみられます。
2.好酸球性腸炎
慢性炎症性腸炎であり、胃や大腸に及ぶこともあります。免疫細胞である好酸球が腸の 粘膜に集合する状態です。腸間膜リンパ節にも浸潤している場合があります。
3.グルテン過敏性腸炎
グルテンの消化産生物に起因します。グルテンが腸粘膜の上皮細胞であるじゅう毛に対し て免疫反応を起こし、萎縮を招いて吸収不良を起こします。アイリッシュセッターで確認 されており、家族性過敏症で遺伝性があるようです。
4.局所性腸炎
肉芽腫様腸炎であり、進行性で回腸が特に障害されます。新鮮血をともない、結腸終末部 に炎症がおきると、しぶり(腹圧をかけても、あまり多く排便できない状態)が発生し、 腹痛を伴います。予後不良です。

<各腸炎の診断、治療について>
診断は、血液検査に加えて、内視鏡による観察、腸の細胞診断です。 治療は免疫抑制剤の投与。低アレルゲン食、低脂肪食、アレルゲンフリー食の給与。 診断によっては外科摘出(局所性腸炎、腸腫瘍)を行います。

次回は、下部消化器の終末組織である大腸、肛門についてお話します。

イヌの消化器系の病気について (下部消化器8)消化器系



下部消化器の炎症性腸炎ついて述べていきます。

炎症性腸炎とは?
症状として、慢性経過です。慢性嘔吐、慢性下痢、慢性嘔吐と下痢が特徴。
改善と憎悪を繰り返し、体重減少が顕著になります。
嘔吐物は、時間経過した未消化物であり、胆汁を含みます。
下痢は軟便、液状であり、悪臭を伴います。時々、貧血も見られます。
免疫介在性であり、腸粘膜に免疫性細胞(リンパ球、形質細胞、好酸球)など浸潤するのが特徴です。
診断名として、リンパ球性形質細胞性腸炎、好酸球性腸炎、グルテン過敏性腸炎、肉芽腫性様腸炎、などです。腫瘍性のものとしてリンパ肉腫、腺癌、腺腫、平滑筋肉腫などがあります。
カテゴリーとして、吸収不良性症候群と分類できるでしょう。診断は、内視鏡検査とバイオプシーによって確認できます。
治療は、食物アレルギーが関係した免疫疾患ですので、腸の免疫系が異物認識しない蛋白質、脂肪、炭水化物などの低アレルギー食を与えることです。
グルテンを含まない、タピオカ、ポテト、コーンなどが選択されます。また繊維量を増強することで腸の動きを良くします。
内服は、免疫抑制剤(プレドニゾロン、アザチオプリン、)を投与します。限局した腸炎にはスルファサラジンが効果的です。
腫瘍性のものは、外科摘出、プレドニゾロン併用の化学療法(抗がん剤:エンドキサン、オンコビン)などです。ただし予後不良の場合が多いといわれます。

次回は、各炎症性腸炎について説明します。

イヌの消化器系の病気について (下部消化器7)消化器系

下部消化器の各種下痢疾患の診断と治療について述べていきます。

1:吸収不良症候群の診断と治療

吸収不良は、小腸の繊毛の損傷が原因となります。食物過敏、寄生虫の大量寄生、細菌、 ウイルスによるものです。食欲は旺盛にもかかわらず、栄養がとれず痩せていきます。 また、すい臓から脂肪を消化する酵素(リパーゼ等)がうまく分泌されない為に、脂肪が 消化されず体毛はあぶらこい状態になり、便は大量で、臭気がきつく泥状です。 診断はコバラミンと葉酸の定量検査です。また小腸の生検(一部の細胞をとり、組織の状態を観察し診断すること)。 治療は食事療法や、消化酵素剤の投与です。

2:食物アレルギーの診断と治療

食物アレルギーの特徴は、消化器官以外の皮膚にも症状として現れます。 また、その両方同時におこることもあります。 消化器症状は嘔吐、下痢、腹痛。皮膚症状は、掻痒感、うろこ状(胸、腹部)に赤い腫脹 みられます。皮膚症状の延長上に、外耳炎を起こします。 診断はアレルゲンフリーの食物をあたえ、反応をみることです。症状が治まれば食物アレ ルギーと診断します。また、再度アレルゲンフリーの食事から、下痢をおこした食事を与 えて症状が再発すれば、食物アレルギーと確認できます。 現在は、アレルギー検査も充実しています。食物のアレルゲンの特定が可能です。 食事療法と、アレルギー検査の併用を薦めます。

次回は、炎症性腸炎について検討していきます。

イヌの消化器系の病気について (下部消化器6)消化器系

1:細菌性下痢の診断と治療

犬の小腸には常在菌があり、少なからず消化に関与しています。
しかし、その常在菌の平衡が崩れ、特定の菌が増殖すると下痢を発症します。
これには、環境の変化、食事の偏向、腐敗した食べ物の摂取などの外的ストレスや寄生虫の感染、免疫低下などが関与しています。

診断:慢性間歇性の下痢。排便の一部を採取して培養します。培養により細菌の種類を鑑別します。より精度のある検査は、葉酸、ビタミンB12の測定です。細菌は葉酸を合成し ビタミンB12を消費しますので、血清中の葉酸、ビタミンB12の絶対値、比率を測定することで、腸内変化を推察できます。細菌過剰は、葉酸値上昇、ビタミンB12値低下です。 治療:抗生剤、整腸剤、経口インターフェロン剤の投与。
抗生剤の選択は感受性試験を行うことにより判断します。

2:蛋白質喪失性腸炎(リンパ管拡張症)の診断と治療

小腸から吸収されるべき蛋白質が、吸収されずに腸内に漏れてしまう疾患です。

診断:体重減少、腹水、浮腫など。生化学検査、血球計算等で、アルブミン、グロブリン(血液中の蛋白)の絶対的低下。貧血。あるいは脂肪吸収試験の不良。葉酸、ビタミンB12 双方の低下。場合により、小腸の生検(組織を採取)、リンパ管造影など。
治療:免疫抑制剤や、抗生剤。心臓疾患や腸閉塞などでも発症するので、その 原因治療。処方食として低脂肪食を与える。(低級脂肪酸がリンパ管圧を上昇させ さらに蛋白を喪失するため)

次回も引き続き下痢疾患についてお話していきます。

イヌの消化器系の病気について (下部消化器5)消化器系

下部消化器のウイルス性下痢疾患の診断と治療について述べていきます。

1:ウイルス性下痢の診断

パルボ、ジステンパーはウイルスの検出をすることにより確認されます。
排便中にウイルス抗原(ウイルスそのもの)を検出します。ジステンパーは鼻汁、唾液、結膜でも確認できます。これは感染初期に確認されます。

<血中のウイルス抗体価の測定>
ウイルスが体内に侵入し、そのウイルスに特定した免疫が反応することにより(抗体価の上昇)感染が確認されます。パルボ、ジステンパー、アデノ、パラインフルエンザ等。
ただし、抗体の由来も、移行抗体(母犬から譲り受けた免疫)、ワクチン抗体(ワクチン接 種によって得られた免疫)、感染抗体(感染時に反応した免疫)、等がありますので、臨床症状や、ワクチン接種の有無、抗体価の上昇度による組み合わせで判断します。
また、IgM、IgG、(体内免疫蛋白)を定量、測定、両者を比較することにより感染時期を特定することができます。抗体価との組み合わせは、より診断精度を高めます。
IgMが存在することにより、初期感染と判断されます。ただし、ワクチン未接種、接種2ヶ月以上の場合です。
IgGは感染後、10日から上昇、1ヶ月でピーク。半年間持続します。ただし、2−3ヶ月齢仔犬では、移行抗体(母犬からの譲り受けた免疫)の可能性もありますので存在自体が感染とは限りません。
これらの診断は混合ワクチン接種の効力を確認するために応用されることもあります。治療は、輸液(電解質補正、細胞外液の調整)、インターフェロン投与、血漿輸液、等などです。

次回も引き続き各論とします。

犬の消化器系の病気について (下部消化器4)消化器系

下部消化器の下痢疾患で代表的なものを述べていきます。

  1. ウイルス性(パルボ。ジステンパー。コロナ。)コロナウイルスは、パルボと同時感染すると、症状を憎悪させます。
  2. 細菌性(ぶどう球菌。パスツレラ。連鎖球菌。)クロストリジウムは毒素による障害があります。サルモネラ、カンピロバクターなど。
  3. 出血性(細菌毒によるもの。)小型犬に多い。ミニチュアシュナウザー、ミニチュアプ−ドル、ダックスフントなど。
  4. 食物アレルギー(消化器症状と皮膚炎を併発。)下痢のほか、嘔吐、腹痛、体重減少、皮膚炎と同時に外耳炎。
  5. 吸収不良性症候群(消化不全、吸収不全。)小腸の機能不全、すい臓の酵素分泌不能により栄養素が吸収できない疾患です。
  6. 炎症性(腸の粘膜炎症。)腸粘膜の免疫障害により炎症がおこり吸収不良が起こります。
  7. 蛋白喪失性(たんぱく質の吸収不良。)小腸の蛋白吸収ができず、蛋白質が腸管内に漏れてしまい、腹水や皮下浮腫を起こします。
  8. 寄生虫(回虫、鞭虫、原虫。)子犬などに、散見されます。
  9. 拾い食い(異物摂取)


次回は、各種疾患について説明していきます。

イヌの消化器系の病気について (下部消化器3)消化器系

下痢は愛犬家がもっとも遭遇する病気の一つと思われます。
下痢便の状態により、原因や疾患もある程度予測され下痢便の軟度、色、回数と量、愛犬の症状により判断していきます。

水様性のものは、食物の腸の通過時間が早く、蠕動、振り子運動が正常ではないことがわかります。どろどろとした便では腸粘膜の剥離が起きています。
油状であれば吸収不全。泡状は病原性細菌の増殖を疑います。タール状、黒色便は、小腸、もしくは胃から出血。鮮血は大腸、肛門から出血。薄い色は胆汁分泌が不完全である場合。

粘土状は、消化吸収が低下した場合で、膵臓からの酵素分泌低下を疑います。
回数が多く少量の便を多く排泄するのが、結腸、大腸性下痢。比較的多くの便を数回にわけて排泄するのは小腸性下痢。臭いがきついのは、細菌過剰増殖。愛犬が体重減少するの場合は吸収不良。食欲は変わらないが、下痢であれば結腸、大腸の疾患と思われます。

次回は、各種疾患について説明していきます。

イヌの消化器系の病気について (下部消化器2)消化器系

下部消化器系の症状として、いくつか挙げられます。

一般に下痢、便秘、メレナ(黒色タール便)、排便のりきみや、疼痛。げっぷや、腹囲の膨大(腸内のガス産生)、肛門周囲の病変(出血、こすりつけ)、排便失禁などです。
診断には、身体検査、レントゲン検査、超音波検査、内視鏡検査、生化学検査、血液検査糞便検査、などがあります。重要なのは問診、触診、便の状態です。

まず、飼い主さんが、最初の情報として発症時期、経過をしっかり把握することでしょう。
下痢の治療に関しては、脱水を補うことが重要です。点滴により、体細胞内外液の代謝イオンを正常に戻すことで、代謝性アシドーシスによる虚脱や血液循環障害を防ぎます。
症状の程度、原因により治療方針は変化しますが、支持療法として点滴が有効です。

次回は下痢の原因や各種疾患について説明していきます。

イヌの消化器系の病気について (下部消化器1)消化器系

下部消化器は、小腸:十二指腸、空腸、回腸、大腸:盲腸、横行結腸、下行結腸、直腸、肛門と解剖学的に分類できます。大きく分けて小腸、大腸で構成しています。

小腸は消化酵素によって脂質やたんぱく質を分解し、小腸粘膜の絨毛によって、より低分子栄養(脂肪酸、アミノ酸、糖類)を吸収します。(消化酵素は、膵臓、肝臓に由来)

また、小腸絨毛は、酵素産生細胞、血管とリンパ管、粘膜産生細胞で構成されます。
腸管には常在細菌があり、消化を手助けします。特に、母乳期に獲得されます。

大腸は水分を吸収するのが主で、未消化のものは便として排泄されます。
腸の長さは体長の約三倍です。分節運動により、食物をかき混ぜ、接触させ、小腸粘膜から栄養素を吸収させます。蠕動運動により食物を移動させます。
腸の病気とは、これらの腸構造、腸生理機能、腸運動に障害を受けたときに発症します。

腸への障害とは何か?
次回に説明していきます。